雨が降り出した。
6月の終わりである。珍しいことではない。
ただ不気味な黄緑であることを除けば‥。
陵潔学園の坂下にある小さな商店街は昼下がりの買い物客で賑わっていた。
コロッケなどの惣菜の匂いが漂っている。
何故かカレーの匂いが混ざり始めた。
八百屋の大根が黄緑にそまる。
手の平の雨粒をみた主人はその不気味な色に当惑して空を見上げた。
学園の上にいままでみたこともない色の巨大な雲が浮かんでいる。
異変にまず反応したのは生ゴミをあさっていた野良犬であった。
葱のとびでたビニール袋を抱えた主婦に襲いかかる。
主婦は喉仏から血を吹き出し即死した。
いや即死したはずだった。
その主婦はむくりとおきあがると緑色にそまった犬を両手で引き千切った。
犬は2つに分かれたまま別の買い物客を襲う。
商店街は赤と黄緑の液体にそまる。
互いの肉を貪りあうゾンビ化した人々。
無傷の者がいなくなるまで傷つけあうと彼らの矛先は当然、屋内にいた人々に向かった。
30分後にはもはや街にまともなものはほとんどいなかった。
ごく数名を除いては。
ある畳屋の作業場で2人の男が将棋を指していた。
一人は古びた和服を着こなしもう一人はしろいパッチに腹巻きという妙ないでたちである。
どうやら和服のほうの男が優勢であるらしくパッチのおやじはしきりに「待った」を頼んでいるらしい。
そこにも10数名のゾンビが乱入して来た。
つぎの瞬間。
和服の男を喰らおうとした数名は100片以上に解体された。
パッチの男を喰らおうとしたのこりはすべて壁に叩き付けられ厚さ1センチに満たない肉塊となった。
「どうやら妙なことになったようだ。勝負はあずけておくか。はっちゃん」
「ワシの勝ちじゃ。がっちゃん」
「むっ」
将棋板には返り血ひとつついていない。