連想ホラー小説遊戯

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S.キング的情景描写「そのときついに‥‥‥」












先輩、何なんですかあいつ。ずっと一人でブツブツ喋ってて、気味が悪いですよ」
 
鉄格子の前で、若い警官が年上の同僚に尋ねた。

「ああ、お前は昨日非番だったからな」
 年上の警官が意味ありげな笑みを浮かべて頷いた。
「あれは三十七人殺したサイコ野郎さ。鉈や斧やチェーンソーなんかを色々と使ったらしいぞ。昨日逮捕されたばかりだ。新聞読んでないのか」

 二人は、檻の中で膝を抱える男へと視線を向けた。
 ボサボサの髪と無精髭に覆われた顔は青白く、虚ろな瞳は一点を凝視したまま動かなかった。
 男は、二人の警官の会話などまるで耳に入っておらず、自分の世界に没頭しているように見えた。
 呪文のような低い声だけが、絶え間なく続いていた。
 今、檻の中には、その男だけしかいなかった。

「取り調べに立ち会った奴の話では、自分の中に六人の人物が入ってると言ってたそうだ。
名前も決まっててな。レクター博士とか、キャリーの母、レザーフェイスの弟、そうそう犠牲者Aというのもあったな、ハハハ。まるでホラー小説の世界だろ。変なのもあったな、甘美なる効果音とかな。ええっと後一つは何だったかな、S.キングの何とかって……」

「S.キング的情景描写」

 男の冷たい声に、警官達の笑顔が凍りついた。
 振り返ると、男は先程と少しも変わらぬ表情で宙を見つめていた。

 やがて、気を取り直した年上の警官が言った。
「ま、まあ、明日は精神鑑定が行われるというしな。しかし、病院送りなんかになるよりもさっさと死刑になっちまった方が、社会にとってもこいつにとっても幸せなんじゃないかねえ」
 警官の言葉にも、男は全く反応しなかった。

 二人がその場を離れた後、留置場には、男の不気味な独り言だけが響いた。

全く、低能共にも困ったものだ。あんな奴らに我々の意義を理解出来る筈もない」
「同感ですわね博士」
「オ、オレ、コロシタリナイ」
「早く僕の仲間を増やして下さい。僕はもう疲れ果てました」
「ギャリギャリギャリギャリ」
「弱音を吐いた犠牲者Aを、レザーフェイスの弟はチェーンソーで切り裂いた」
「マダマダマダマダー」
「痛い痛い。ああ、いつになったら僕は解放されるのだろう」
「あんたは永遠に私達から逃れることは出来ないのよ」
「しかし、もうじき満月だな」

 六つの声音は、一人の男が発しているとは思えないほど明確に特徴が分かれていた。
 そして、男は、殆ど口を動かしていなかった。
 壁に向けた男の背中。
 服の下で、もぞもぞと蠢くものがあった。
 六つのそれは、瘤のようにも見える。

「無知な奴らに、我々の力を見せつけてやるとしよう」
「オ、オレ、チェーンソー、アルゾ」
「ギュイーン」
「この世はクズばかりよ。皆、悔い改めるがいいわ」
「キャリーの母はヒステリックに叫んだ」
「僕の手足が足りないよう。確か二十本はあったのに」
 声は、背中から聞こえているようにも思えた。

「ああ、いい加減、狭い場所にも飽き飽きしたな」
「レクター博士はそう言うと、大きく伸びをした」

 ボコリ、と、男の背中が動いた。
「そろそろ出かけるとするか。準備はいいかね諸君」




 
無表情だった、男の口、が、大きく、引き攣った、笑みを、浮かべ、た。

 ピシリ。

 男の顔に、亀裂が走った。









このエンディングは狂気太郎さんにご執筆いただきました。
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オリジナルのホラー小説は読み応えがあります。
不思議な独り言は毎日更新されているようです。

私のお勧めは「内臓の海」です。


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